佐洋画家東京藝術大学名誉教授、東北生活文化大学学長 世界はすでに、グローバルな「地球社会」となっており、経済、政治、法律、生活、文化のあらゆる領域が、互いに密接につながっています。ありとあらゆるものが相互に依存する状態になっています。たとえば、アジアから、ヨーロッパ、そしてアメリカ大陸へと、新型コロナウイルスによる感染拡大は、地球全体を覆う勢いです。私たち一人ひとりが向き合わざるをえない状況になってきました。 今回、「三菱アジア子ども絵日記フェスタ」は、選考委員全員が一堂に会する国際選考会が見送られ、絵日記の画像によるリモート選考をせざるをえない状況になりま齋画家東京藝術大学准教授 私が審査をするのはこれが二度目の経験。全体的に、前回にも増して着色をしっかりしているという印象を持ちました。どの国でも子どもが画材を手に取れる機会が増えているのでしょう。そして一方で、民族芸術の技法を取り入れあえてモノトーンで表現したり、大変細かい描き込みや文字の装飾をほどこしている作品もいくつか見られました。「子どもはおおらかに伸びやかに」というのは大人の勝手な思い池ジャーナリスト名城大学教授 応募作品の選考は、楽しいけれど、辛い作業でもあります。子どもたちが描いた生き生きとした作品に甲乙をつけなければならないからです。 どれも、それぞれの国で選ばれたものばかりですから、そ郎 選考委員長生 選考副委員長野 選考委員大写真家■ 国こくさいせんこういいんかい際選考委員会 76 以前、私が訪ねたことのある地の絵日記には頷くものも多いのですが、知らない国々には新鮮な発見もあって感動します。一人5枚(5パターン)の絵日記には、その子の気持ちや考えが真剣に描かれていて、とても愛おしくさえ思えます。子どもたれはそれは見事でした。 毎回選考を続けているうちに変化も感じ取れるようになりました。それは、アジア アジアの子どもたちのパワーに満ちた絵日記は審査をしながらいつも元気をもらっています。今回も同じでした。絵ばかりでなく文章からも自分や家族、地域や社会、自然や環境など、日ごろからよく観察し、考えていることについて、一人ひとりの思いがペンを通して作品から伝わってきます。した。グローバルな「地球社会」の網目から免れなかったわけです。しかし、6月上旬には、選考委員長、副委員長による実作品を見ながらの最終審査をすることができました。生身の生命力あふれる色と形の迫力には圧倒されました。また、韓国からの作品には、「コロナ感染者が1261人にもなった。」とのテロップが書き入れてあり、画面背景が黒色で覆われ、恐ろしいという気持ちが漂っています。 アジアの子どもたちの絵日記を拝見すると、高度情報化されたグローバルな「地球社会」がアジア諸国の隅々にまで浸透してきているのが痛いほどわかります。他方で、国、地域ごとに培われてきた伝承的および伝統的な生活と文化を維持し、発展させていこうとする、すなわち大地に根ざしたローカルな「地域社会」を創り出そうとする、子どもたちの健康な思考と強い意志も感じられます。これら二つが重なる社会環境のもとで、子どもたちは絵を描き文章を綴ることで、知らず知らずのうちに心の奥深くにある本来の「自分自身」の未来を見出しています。このような子どもたちが大人になった時代の「地球社会」は明るい、と期待を持つことができました。込みで、子どもだからこそ細かい部分にこだわり、集中力を発揮して表現に結びつけることもあるのでしょう。それぞれの子どもにとっての興味の対象が、はっきりあらわれてきたのだと思います。 新型コロナウイルスが世界的に流行する中で、不安な気持ちを日記に書き留めたものもありました。日記に書く、ということは、自己をしっかり見つめながら人生を作っていくことの助けになるはずです。不安なことや悲しいことも嘘なく書きとめることで、その次の新たな明日へ向かう気持ちになれることもあるでしょう。こうやって絵日記を書く体験を宝にし、日々の出来事や心のゆれ動きのすべてがかけがえのないことなのだ、ということを子どもたちが感じてくれることを祈っています。この子たちは素直に日記に書いています。 この子たちは自分の生活を愛しています!家族、友だち、学校、国を誇りに思っています。 物質的に恵まれた昨今の子どもたちにとって、自然環境に触れる機会が減少することが、どれほど大きな損失なのか、絵日記プロジェクトが教えてくれています。彼らが十代になるころには、ますます「命の本質」を見失っているのではないかと懸念します。 スマートフォンやバーチャル・リアリティのゲームに夢中になってもかまいません。けれども、子どもたちには家族とともに食事をし、鶏に餌をやり、犬や猫をかわいがりながら、命の本質を見失わないでいてほしいのです。 80歳になった私には、これらのすばらしい絵日記の一枚一枚から、アジアの子どもたちの声が伝わってきます。彼らの生活体験を共有し、一緒に笑いました。私たちは皆、同じ惑星の住人であるということを、絵日記が思い出させてくれたのです。1990年から本事業の審査員を務めていただいたC.W.ニコル選考委員は2020年4月3日にご逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。ちはみなしっかりと自分を見つめていることが伝わってきます。それだけに成長が楽しみです。同時に絵日記から私も教えられたり考えさせられたりすることが多々ありました。 画材に関しては国や地域によって用いられているものの違いがあるようですから、念頭には置かないようにして審査しました。逆にそれらの違いがかえってアジアの多様性にもなっていて個性でもあると思います。色鉛筆、クレヨン、クレパス、水彩絵の具など多様な道具によって私たちは広いアジアの一面を伝えてもらえることができるような気がします。だれもが同じような画材で似たような調子で描いたら一面的になり兼ねません。アジア子ども絵日記の意味合いは多様性と個性ですから、それらを大事にしながら、自信を持ってこれからも描き続けて欲しいものだと思っています。 たくさんの絵日記を見せていただいてありがとうございました。でも他の国より貧しいとされてきた国の子どもたちの絵が、どんどん明るくなってきたことです。 以前は、絵を描く道具にも事欠いていたのではないかという状況の国もあり、淡色の色彩が多かったのですが、その国でも華やかな絵が増えました。こんなところからもアジアの発展を実感します。 国により、イスラムだったり仏教だったり、宗教色もさまざまで、アジアの多様性を知ることになります。 今回は新型コロナウイルスの感染拡大の中での審査となりましたが、早く子どもたち同士の交流ができる日を待ち望んでいます。態により違いがあります。 でも、子ども達にとっての「喜び」「充実感」には違いがありません。どうかこのピュアな子ども達の暮らしがずっと平和でありますように、大人の責任を感じながら、読ませていただきました。 この企画に参加した子ども達にとって、自分の暮らしや価値観とは違う生活を知る事が、視野を広げるきっかけになると信じています。さとういちろうさいとうめおまちこおおいしよしのいけがみあきら 選考委員さとなか智子 選考委員藤 一藤 芽C.W.ニコル 選考委員作家 1940年に生まれた私は、今年の夏に80歳の誕生日を迎えます。太古より老人は若者を見下してきました。「我々が若い頃はそんなふうじゃなかった……」と批判ばかりしてきたのです。 私は少年時代を英国で過ごし、別世界である日本で、老人としてのいまを迎えています。考えてみれば、私だって若者を見下したことはありました。しかし、アジアの子どもたちの「エニッキ」ピクチャー・ダイアリーを読むと、懐かしい幸福感で胸がいっぱいになります。いまなお、家族とともに故郷で生活をしているアジアの子どもたちの絵日記からは、とりわけ強くそれを感じます。家族や友だちのこと、勉強や遊び、薪の収集や炊事や掃除、家畜やペットの餌やりなどの家事に関するお手伝い(特に重要!)……要するに生活環境について、石 芳上 彰中 満里マンガ家大阪芸術大学教授 各国や地域の子ども達の生活には、それぞれの文化や風習が反映されています。地域によって経済格差があり、何を楽しんでいるかは経済状
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