三菱アジア子ども絵日記フェスタ
選考委員の紹介
1946年生まれ。宮城県出身。洋画家・東京藝術大学名誉教授および、東北生活文化大学学長。
70年東京藝術大学美術学部絵画科卒業、72年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程油画修了。73年東京芸術大学研究生修了後、ドイツ学術交流会留学生としてハンブルグ美術大学に留学。帰国後、博士課程油画に在籍し、81年に東京藝術大学美術学部絵画科常勤講師、86年に同大学助教授に。95年には文部省在外研究員として、ウィーン美術大学修復学科に在籍。99年より14年まで東京藝術大学美術学部教授、14年から19年まで金沢美術工芸大学大学院専任教授、現在は東北生活文化大学学長を務める。作品に「透視肖像の図」、「調色板と電熱器」、「青葉」、「那智大滝」、「蔵王御釜」などがある。
三菱アジア子ども絵日記フェスタが16回目を迎え、たいへん嬉しく思います。
現在、グローバルな地球社会が進展するとともに、激動の時代を迎えています。ICT(インターネット・コミュニケーション・テクノロジー)に代表されるデジタル通信技術は、漫画やイラストといった形でも子どもたちの絵画表現に表れており、やはりいずれの国の作品にも大小さまざまな形で影響が出ています。ただし、そういったグローバルな地球社会に対して、自分たちが住んでいるローカルな地域社会を子どもたちは非常に大切にしています。その地域における、神様とか、自然とか、あるいは家族、そして子どもたちを取り囲む環境に対しての感謝の念が色濃く表れている作品も多数あり、印象的でした。
私が審査を続けているここ10年ほどの間にも、どんどん作品の密度や完成度が高まり、同時に、子どもたち独自の感性で、オリジナリティあふれる作品も増えてきています。
画家。1973年生まれ。東京都出身。96年、東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。2001年、同大学院博士課程修了。現在、東京藝術大学美術学部絵画科油画教授。
旅の途上で目撃した光景を、虚実入り混ざったイメージで細密絵画に描く。絵画とともに詩的な言葉を配した、文学的な作品世界が特徴。主な展覧会に2002年「傾く小屋 美術家たちの証言 since 9.11」東京都現代美術館、2009年「アーティストファイル2009 - 現代の作家たち-」国立新美術館(東京)、2016年「平成28年秋の有隣荘特別公開 -密愛村-」、2019年「線の迷宮〈ラビリンス〉III 齋藤芽生とフローラの神殿」。2010年、VOCA展2010にて佳作賞と大原美術館賞を受賞。主な著書に「徒花図鑑」(藝術新聞社)、「四畳半みくじ」(藝術新聞社)。
今回はコロナという大きな出来事が世界を覆い尽くした後の審査でしたが、すっかり生活が元に戻っている様子がたくさんの絵日記から感じ取れました。それと同時に、その間にやはり何か、世界が、それぞれの国の体制が、どんどん変わっていったのだなという驚きも少なからずありました。本当に素朴で、牧歌的だった国の絵がどんどん都市化しているというか、家族や生活というものから、もっと自分の趣味や習い事など、個人的なことに意識が移っているような感覚を受けました。また、都市化と、それとは逆の、本当にその国に根付いた文化というものがうまくミックスされている国々の作品は、非常に色彩も力強く、話題も豊富で興味深かったです。
東京都出身。写真家。日本大学芸術学部写真科卒。
大学卒業後、戦争や内乱が残す不条理に傷つき苦悩しながらもたくましく生き続ける人びとの姿をカメラとペンで追う。1994年「カンボジア 苦界転生」で日本ジャーナリスト会議奨励賞、日本地名研究所、芸術選奨、2001年「ベトナム凜と」で土門拳賞、長年の活動に2007年エイボン女性大賞、同年紫綬褒章などを受けた。「福島FUKUSHIMA土と生きる」で2013年JCJ賞(日本ジャーナリスト会議)を受賞。2023年には平和への取り組みに対し「澄和Futurist賞」に選出された。
写真集に「パプア人」「ワニの民メラネシア芸術の人びと」「沖縄に活きる」「夜と霧は今」「HIROSHIMA 半世紀の肖像」「沖縄 若夏の記憶」「生命の木」「コソボ破壊の果てに」「アフガニスタン戦禍を生きぬく」「コソボ絶望の淵から明日へ」「子ども戦世のなかで」「〈不発弾〉と生きる 祈りを織るラオス」「黒川能の里 庄内にいだかれて」「それでも笑みを」「戦争は終わっても終わらない」「戦禍の記憶」「長崎の痕」などがあり、最新書は2022年「わたしの心のレンズ 現場の記憶を紡ぐ」。
広くアジアの子どもたちの絵日記を見せていただき、ありがとうございました。たくさん見せていただいたので、疲れてしまいそうですが、逆に元気をいただきました。子どもたちの、本当にはちきれそうな元気、深く物事を考えている心の中、社会をしっかりと見つめている眼の確かさ、そして家族に大切にされ、自分も家族を大切にしている想いなどが、それぞれの絵日記の中から伝わってきました。驚くことに、それぞれ国が違い、色々な出来事を描いているのに、その想いはみんな共通しています。その一方で、広い大地を感じさせる力強い作品が多い国や、淡い色彩でやわらかい印象の作品が多い国など、それぞれの個性もきちんとあり、今回の審査は、物事を深く考えるきっかけを作ってくれたように思いました。
1950年生まれ。長野県出身。ジャーナリスト、名城大学教授。
1973年NHK入局。報道記者、ニュースキャスターを歴任し、1994年より2005年3月までお父さん役で出演したNHK「週刊こどもニュース」では、編集長兼キャスターを担当する。2005年3月にNHKを退社、現在はフリージャーナリストとして活躍し、東京科学大学特命教授、立教大学客員教授、信州大学特任教授などを兼任。著書に「伝える力」「池上彰のやさしい経済学」「知らないと恥をかく世界の大問題」「そうだったのか!~シリーズ」など多数。
毎回この審査をお受けしていますが、全体としては非常に明るくなってきたという印象があります。特に前回は、みんなで一堂に集まって色々審査することも難しかった時期で、作品の絵の中もマスクをしていたりと、新型コロナウイルスの影響が強く出ていました。今回は、コロナが一段落したことで活動域が広がって、明るくなったなと感じました。作品を実際に見ると、それぞれ民族が違ったり、習慣が違ったり、あるいは宗教が違っている。本当にアジアって多様な地域なんだなということが作品から伝わってきます。むしろ多様だからこそ、新しいアジアの可能性が出てくるのではないか。そういう意味で、子どもの頃から自分の国はいったいどういう国だろうかと振り返る一つのきっかけになっている、それが絵日記だと感じました。
1948年生まれ。大阪府出身。マンガ家、公益社団法人日本漫画家協会理事長。
高校在学時に「ピアの肖像」で第1回講談社新人漫画賞を受賞。その後、子供から大人向きまでジャンルを問わず幅広い分野で作品を発表し、今年画業60年を迎える。2006年に全作品及び文化活動に対し文部科学大臣賞、2010年文化庁長官表彰、2013年度『マンガ古典文学 古事記』古事記出版大賞太安万侶賞、2014年外務大臣表彰、2018年文化庁創立50周年記念表彰、2023年文化功労者受賞など。代表作に『アリエスの乙女たち』『海のオーロラ』『あすなろ坂』『愛人たち』『女帝の手記』『ギリシア神話』『旧約聖書』『古事記』『天上の虹』など多数。
現在、公益社団法人日本漫画家協会理事長、一般社団法人マンガジャパン代表、NPOアジアマンガサミット運営本部代表、外務省日本国際漫画賞審査委員長などほか、創作活動以外にも各方面の活動に携わる。
素晴らしい作品が多く、今回は本当に迷いました。みんな絵が上手いですね。ただし、絵日記ですから、絵だけではなく、これは何をしているのか、あるいは自分が何を感じたのか、どうしたいのかなど、そういうことまで描かれていると、その人の生活が伝わってきてとても嬉しくなります。絵日記として、自分たちの生活や思いをちゃんと伝えられているもの、そんな事を考えて審査しました。でも本当に審査は難しかったです。みんな一生懸命描いていて、その中でも色を使う時は、やはり迷ってしまうと思います。絵の具や色鉛筆がいっぱいあると、色々な色を使いたくなると思うけれど、必要な色を必要な場所に必要なだけ塗る。あの色も使いたい、この色も使いたいってことをちょっと我慢する。これがきちんとできると、それによって絵に統一感が生まれると思います。何かのヒントになれば嬉しいです。